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月別アーカイブ: 2025年8月

第16回林業雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社晋林業、更新担当の中西です。

 

~森を守り、未来へつなぐために~


前回の「林業の歴史」に続いて、今回は「林業の鉄則」についてじっくりご紹介していきます。
林業は自然を相手にする仕事。だからこそ、安全・計画・継続性の3つの柱が非常に重要とされています。

それでは、林業の現場でプロたちが守り抜いている鉄則を見ていきましょう!


■ 鉄則①:安全第一 ― 命を守るための最優先事項

 

林業は、建設業や漁業と並んで最も危険な産業のひとつとされています。
チェーンソー、高所作業、伐採時の倒木、滑落事故など、少しの油断が命に関わるケースもあります。

そのため、現場では以下のような徹底した安全対策が取られています。

  • ヘルメット・防護服・安全靴の着用

  • 作業開始前のKY(危険予知)ミーティング

  • 伐倒方向の確認と退避経路の確保

  • 無線やホイッスルでの連携体制

林業において「慣れ」は最大の敵。毎回の作業においても“基本に忠実に、安全を最優先に”が鉄則です。


■ 鉄則②:計画伐採 ― 森を壊さず、育てる

 

木をただ切ればいい、というわけではありません。
林業の本質は「持続可能な伐採」にあります。

  • 何年生の木をいつ伐るか(主伐)

  • 間引き伐採(間伐)で森林の健全な成長を促す

  • 伐ったらすぐに新たな苗木を植える(再造林)

これらを全て長期スパンで計画するのが、施業計画というもの。10年、20年、50年先を見据えて山を管理していく。それが“林業の設計図”なのです。


■ 鉄則③:山と人のバランスを考える

 

林業は「自然との対話」。
木を切る量が多すぎても、放置しすぎてもいけません。

  • 間伐不足の山は、日が入らず、木がやせ細る

  • 伐採しすぎると、土砂崩れや水害のリスクが上がる

  • 動植物の生態系や水源保全も考慮が必要

だからこそ、**地域の地形・気候・生態系に合った“山の手入れ”**が必要不可欠。一本一本の木と向き合いながら、山全体の健康を見守るのが林業のプロの仕事です。


■ 鉄則④:木材の品質管理と流通も含めて“林業”

 

現代の林業では、伐った後の工程(選別・運搬・製材・販売)までを一体的に管理することが求められています。

  • 節の少ない高品質な材を選別

  • 乾燥・防虫処理などの工程管理

  • 地元ブランド材(例:吉野杉、秋田スギ)の価値を維持

つまり、林業は“木を伐るだけの仕事”ではなく、「育て、見極め、届ける」一貫したプロセスが必要なんです。


■ 鉄則⑤:次世代へのバトンを渡すこと

 

林業は、1年や2年で完結する仕事ではありません。
植えた苗木が育ち、立派な材として出荷できるまでに40年〜60年かかることも珍しくありません。

つまり、今の林業は、次の世代のために未来の森を設計する仕事なのです。

  • 若手育成と技術の継承

  • ICTやドローンなど新技術の活用

  • 地域との連携・山の価値の“見える化”

こうした新しい取り組みと古くからの知恵を融合させることで、林業はさらに魅力的で誇れる産業へと進化していきます。


■ 森に敬意を、仕事に誇りを

 

林業には「自然を壊す」のではなく、「自然と共に生きる」思想が息づいています。
そのために、安全・計画・環境・品質・継承の5つの鉄則が、今も昔も変わらず大切にされてきました。

木を伐る手には、未来への責任が宿っています。
私たちが今できることは、森に敬意を払いながら、その恵みを活かし、次の世代へしっかりとバトンを渡すことです。

第15回林業雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社晋林業、更新担当の中西です。

 

~人と森の共生の歩み~

今回は「林業の歴史」にスポットを当て、私たち人間と森林との関わりがどのように発展してきたのか、時代を追ってご紹介します。

木材は、建築、道具、燃料、紙など、私たちの生活に欠かせない存在。
でもその裏には、木を育て、守り、伐って、また植える…そんな“林業の営み”がありました。
さあ、一緒に時空を越えて「森の仕事」の歴史をたどってみましょう!


■ 古代:自然林との共存と信仰

 

日本における林業の原点は、縄文時代にまでさかのぼります。
当時はまだ“林業”という概念はありませんでしたが、人々は自然林から木を伐り、家の柱や狩猟具、火を起こす薪などに活用していました。森は“生活の場”であり、同時に“神聖な場所”でもありました。

特に、神社の御神木や鎮守の森など、信仰と森が密接につながっていたのが日本の特徴です。単なる資源ではなく、共に生きる存在としての森。これが、日本の林業の根底に流れる思想といえるでしょう。


■ 中世~江戸時代:計画的な森林利用のはじまり

 

鎌倉~室町時代になると、人口が増加し、建築需要も増える中で、森林の乱伐が進行しました。これにより、一部の地域では山が禿げる「はげ山現象」も起こり、治水や農業にも悪影響を与えるようになります。

そこで、江戸時代になると幕府や藩が計画的な林業政策を打ち出します。

  • 伐ったら植える「循環型林業」

  • 山ごとに木を育てる「留山制度」

  • 村単位での植林と管理の義務化

特に徳川幕府の「御用林制度」では、良質な木材(特にヒノキ)を供給するための専用林が整備され、林業は国の重要な基盤産業となっていきました。


■ 近代:産業としての林業の確立

 

明治時代以降、日本は西洋式の近代国家を目指していく中で、林業も国家主導の産業へと進化していきます。

  • 明治政府による「官林・民林」の区分け

  • 全国でのスギ・ヒノキ植林政策(明治後半〜昭和初期)

  • 軍需産業に向けた山林資源の開発

昭和に入ると、戦争と戦後復興で木材需要が爆発的に増え、伐採と再造林が繰り返されるようになります。
特に1960年代からは、スギ・ヒノキの人工林が全国で一斉に拡大し、戦後林業の大転換期を迎えました。


■ 現代:課題と向き合い、森と再び手を結ぶ時代へ

 

1990年代以降、建築材の輸入自由化や住宅様式の変化などにより、国産材の需要は急激に減少。それと同時に、林業従事者の高齢化、後継者不足、放置林の増加といったさまざまな問題が顕在化しました。

しかし近年では、

  • 地産地消の木材活用

  • バイオマスエネルギーとしての木材利用

  • SDGsやカーボンニュートラルへの貢献

といった形で、林業が再び脚光を浴び始めています。
森林環境税の導入や、森林認証制度(FSC認証)も広がり、「育てて使い、また育てる」持続可能な林業が、改めて注目される時代へと進んでいます。


■ 森と共に生きるという選択

 

林業の歴史は、単に“木を伐る仕事”の変遷ではありません。
それは私たち人間が、自然とどう向き合い、どう共に生きていくかという問いかけの歴史でもあります。

自然を壊すのではなく、活かし、支え合う。
現代の林業は、これまでの知恵と反省を活かし、より健やかな森を未来に残していくための挑戦なのです。

第14回林業雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社晋林業、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~人材不足~

ということで、林業における人手不足の“実態”と“構造的な要因”、そして今後求められる解決策を、現場のリアルをもとに深く掘り下げていきます。

 

近年、国産材の需要拡大や脱炭素社会への貢献が注目されている林業ですが、それと同時に深刻な課題も浮き彫りになっています。

それが、人材不足

「作業員が高齢化して新規の担い手がいない…」
「若い人が定着しない…」
「求人を出しても応募がゼロ…」

こうした声は、北海道から九州まで、日本全国の森林組合や林業事業体から聞こえてきます。


林業における人材不足の現状データ


✅ 林業就業者は減少傾向、かつ高齢化が顕著

農林水産省の調査(令和5年版「森林・林業白書」)によると

  • 日本の林業就業者は約4.3万人(ピーク時の1/10以下)

  • 65歳以上が3割以上を占め、平均年齢は50代後半

  • 35歳未満の若手は全体の1割以下

若手就業者の新規参入はあるものの、定着率が低く5年後には半数以下になるというデータも存在します。


✅ 一方で「山の手入れ」は待ったなし

  • 全国の人工林のうち、約6割が伐採・手入れ適齢期(樹齢40年以上)

  • 特にスギ・ヒノキの成熟林が多く、今伐らなければ資源ロスや倒木リスクも

「人手がないから森林が放置される」現象が、災害・生態系の劣化・地域衰退にもつながっています。


なぜ林業は人材が集まりにくいのか?|構造的課題


❌ 1. 3K(キツい・キケン・キタナイ)のイメージ

  • 重機やチェーンソーを使った高所・傾斜地での作業

  • 季節や天候に左右される自然相手の仕事

  • ヒル・ハチ・熊などの野生動物や災害リスクも

この「3Kイメージ」が今でも若者や女性の参入を妨げている現実があります。


❌ 2. 収入・待遇の不安定さ

  • 月給制ではなく日給制や出来高制の現場も多く、収入が不安定

  • 年収ベースでは200〜300万円台が中心という地域も

  • 冬季や雨天で作業が止まると収入にも影響

「暮らしが成り立ちにくい」=「続けにくい」という悪循環。


❌ 3. キャリアパス・教育体制の未整備

  • 「見て覚える」OJTが中心で、体系だった研修やスキル認定が少ない

  • 森林施業プランナーやチェーンソー資格などはあるが、キャリアとしての明確なステップが描けない

  • 地域によって研修・実習の充実度に差

他産業に比べ、「育てるしくみ」が遅れているのが現状です。


❌ 4. 地域コミュニティとの距離感・孤立感

  • 山間部での作業=都会出身者には孤独感や文化ギャップが大きい

  • 地元との関係づくりや言葉の壁、閉鎖的な地域も少なくない

  • 移住型新規就業者が「定着しづらい」要因にも

️ 「林業はしたいけど、地域になじめるか不安」という声も多く聞かれます。


今、林業に必要な人材とは?


多様なスキルを持つ「新しい担い手」

タイプ 必要な役割
現場オペレーター 伐採・搬出・高性能林業機械の操作
森林マネージャー 森林経営計画・施業設計・資源管理
ICT担当 ドローン・GIS・林業クラウドの活用
地域コーディネーター 地域と林業をつなぐコミュニケーション役

「ただ木を切る」だけでなく、林業も“総合知識産業”へと進化しつつあります。


女性や移住者、異業種出身者が活躍する時代へ

  • 女性林業士による森林教育・観光林業の企画

  • 移住者が森林施業プランナーとして起業する事例

  • 建設業・IT業からの転職者が林業デジタル化を牽引

「林業経験ゼロでも、地域や技術を活かして活躍できる」未来が現実に広がっています。


人材不足を打開する取り組みと可能性


✅ 1. 新規就業支援(緑の雇用制度)

  • 国が実施する「緑の雇用」制度により、研修+給与補助を実施

  • 各都道府県が林業アカデミーや研修施設を設置し、3年で即戦力化を目指す

  • 研修中に必要な資格(チェーンソー・刈払機・伐倒技術など)を習得可能

林業の「入り口」は、徐々に整備されつつあります。


✅ 2. ICT導入とスマート林業の加速

  • ドローンでの森林資源調査、伐採計画の可視化

  • GPS搭載の重機による作業精度向上

  • 森林クラウドでの施業管理・情報共有

重労働の軽減と効率化により、「働きやすい林業」へ転換できる可能性があります。


✅ 3. 教育機関・高校との連携強化

  • 林業科のある高校、農林大学校、職業訓練校との連携を強化

  • 高校生のインターンシップ、山林実習、森林ボランティアなどの受け入れ体制を整備

  • 小中学校からの森林教育で、地元愛・職業理解を深める

「林業=選ばれる仕事」として認識されるためには、若年層への種まきが不可欠です。


✅ 4. 地域と暮らしを支える仕組みづくり

  • 林業就業者向けの住居支援・家族支援・移住サポートの整備

  • 地域住民との交流会・山の案内人・観光との連携

  • 地域に根差した「新しい林業ライフ」のモデル化

ただ「働く」だけでなく、「暮らす・生きる林業」の価値が求められています。


林業の未来は“人”にかかっている


森林を育て、守り、つなぐのは「人の手」です。

しかしその手が足りなければ、
✅ 森は放置され、
✅ 災害リスクが高まり、
✅ 森林資源が活かされず、
✅ 地域も衰退していく。

逆に言えば、「人が戻れば森も地域も再生する」とも言えるのです。

林業の未来は、決して暗くありません。
多様な人材が関わり、働きやすく、やりがいのある仕事へと変えるチャンスが、今まさに訪れています。

 

第13回林業雑学講座

皆さんこんにちは!

株式会社晋林業、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~困難~

ということで、今回は、林業において特に育成が難しいとされる樹木を中心に、その理由や課題、研究的な取り組み、今後の可能性までを深く掘り下げてご紹介!

 

日本の森林は約7割が人工林や二次林といわれており、その大半がスギ・ヒノキなどの経済林で占められています。しかし、近年では生物多様性や気候変動対応、国産広葉樹の需要増などにより、従来扱いづらかった樹木の育成にも注目が集まっています。

しかし中には、

「発芽率が低い」
「成長が遅すぎる」
「病害虫に極端に弱い」
「伐採後の再生が困難」

といった理由で、育成が難しい“繊細な樹木たち”が存在します。


育成が難しいとは?林業的な“難しさ”の定義


「育成が難しい」とは、単に成長が遅いということではありません。林業的には、以下のような要因が複合的に絡んでいます。

✅ 育成が難しい樹木に共通する特徴

要因 内容
発芽・育苗の困難さ 種子が少ない/発芽率が悪い/発芽時期が極端に限定されている
成長速度の遅さ 林業経済上“採算が取れるまでに数十年以上かかる”
土壌・環境の選り好み 日照・水分・土壌pHなどに極端に敏感
病害虫への弱さ 風倒・腐朽菌・特定病虫害に非常に弱い
人工植林や単独育成に不向き 自然更新を主とするため管理が困難

🌲 これらは、経済林としての価値や管理コストに大きく影響し、結果として「林業的に敬遠されやすい」という現実があります。


林業において育成が難しいとされる代表的な樹種


🌳 クヌギ(ブナ科)

  • 用途:炭材(特に備長炭)、椎茸原木など

  • 難しさの理由

    • 実生からの発芽率が低く、どんぐりの寿命が非常に短い(発芽までに乾燥するとほぼ死滅)

    • 成長に時間がかかり、炭用材にするには30年以上が必要

    • 台風による風倒被害を受けやすい

📝 現在では自然更新(伐採→萌芽更新)に頼るケースが多く、人工造林は極めて手間がかかる樹種


🌲 ブナ(ブナ科)

  • 用途:家具材・内装材・水源涵養林として重要

  • 難しさの理由

    • 種子の豊作が数年に1度と不定期

    • 陽樹(光を多く必要とする)でありながら、初期には日陰でしか育たないという“光要求の逆転現象”あり

    • 一定の湿潤気候・高冷地を必要とする

🧪 近年ではブナの天然更新・自然遷移を活かした「長伐期施業」が提案されていますが、収益性が極めて低い点が課題です。


🌲 ミズナラ(ブナ科)

  • 用途:ウイスキー樽・家具・フローリング材など

  • 難しさの理由

    • 育成初期にシカによる食害を受けやすい(若木が好物)

    • 森林内での競争に弱く、広葉樹林のなかで優占しにくい

    • 湿地や高標高地域に生育が限られ、大規模人工林には不向き

📦 近年のウイスキーブームで需要が高まっていますが、供給が追いつかず、希少化が進んでいます。


🌲 ケヤキ(ニレ科)

  • 用途:神社仏閣・高級家具・彫刻材など

  • 難しさの理由

    • 成長速度が極端に遅い(樹齢80年でも直径30cm以下)

    • 根の張り方が広く、間伐・移植が困難

    • ケヤキハフクロフシという病害が蔓延しやすい

🏯 文化財建築などの需要は根強いものの、現代の短期サイクル林業では扱いづらい代表的な広葉樹です。


なぜ今、難しい樹木の育成が見直されているのか?


✅ 1. 脱スギ・ヒノキ依存の流れ

  • 戦後植林されたスギ・ヒノキは大量に成熟期を迎えつつあるが、需要減少と価格下落が続いている

  • 一方で、広葉樹や“地域らしい樹種”の見直しが進み、地域ブランド材へのニーズが上昇中

🌱 多様な木材利用へのニーズが「難しいけど価値の高い樹木」を求め始めているのです。


✅ 2. 気候変動への対応

  • スギなど一部樹種は高温・乾燥に弱く、将来的に生育地が縮小する可能性あり

  • 一部広葉樹(例:ミズナラ、シデなど)は温暖化耐性に優れ、将来の主役候補

🌍 “難しいが、今後の森林の多様性と気候耐性を支える存在”として注目されています。


✅ 3. 観光・教育・生態系の観点

  • 高齢化により素材生産以外の林業(森林教育・観光林業など)への移行も視野に

  • 難育成の樹木は生物多様性や景観価値が高く、地域資源として活用しやすい

🍁 「育てにくさ」=「希少性」=「新しい価値」に転換されつつあります。


難しい樹木を育てるための工夫・研究動向


✅ ・種子保存と苗木技術の向上

  • 超低温貯蔵(−80℃)による種子寿命の延長

  • 微細気象制御ハウスでの高温・乾燥ストレス対策型育苗

  • 遺伝子情報を活用した発芽率向上の研究


✅ ・混植造林と自然遷移を活かした森林経営

  • 難育成樹種をスギ・広葉樹・針葉樹と混植し、互いに生育を助け合う構成に

  • 伐採後は更新せずに自然遷移に任せる「放置更新」とのハイブリッド運用も検討中


✅ ・ドローン・リモートセンシングの導入

  • 小面積でも衛星・ドローンで成長データをモニタリング

  • 育成困難地での高精度間伐・下草管理の効率化

🌲「手間をかけずに、難しい木を守る」技術が今、加速度的に進化しています。


難しいからこそ、未来に残す価値がある


育成が難しい樹木には、
✔ 繊細な生態
✔ 長い成長時間
✔ 高い管理負担
といった“育てにくさ”があります。

しかし、だからこそ彼らは、

✅ 森林の多様性を支え
✅ 地域文化や伝統工芸を守り
✅ 地球環境の変化に耐える存在

として、未来の林業を支える“希望の樹”でもあるのです。

林業の在り方が変わる今こそ、私たちは「育てにくい木」にこそ、もう一度光を当てる時なのかもしれません。